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ペルセポネの略奪

 前回は、竪琴の名手であるオルフェウスが、亡き妻エウリュディケをこの世に連れ戻すべく「冥府下り」をした物語を見てきました。この物語の中でオルフェウスの奏でる妙なる竪琴の音色に、さしもの冥王ハデスも心を動かされ「よかろう」となったのでした。
 分けても深く感動したのが冥王の妻であるペルセポネでした。ハデスによる「エウリュディケ連れ戻し許可」は、ペルセポネの強い執りなしがあったからなのです。

 もっとも、折角妻を取り戻しかけたオルフェウスでしたが、ハデスから「何事があっても決して後ろを振り返っはならない」と固く言い渡されたにも関わらず、つい後ろを振り返りすべて水泡に帰してしまいました。
 こうして「オルフェウスの冥府下り」は一大悲話となったのでした。

 実はペルセポネが冥王の妻となるに至った次第も「悲話」であるのです。今回はその悲話について見ていきたいと思います。

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 ペルセポネはそもそもは「コレー」と呼ばれた、ゼウスとデメテルの娘でした。ある時ペルセポネ(コレー)は、ニューサという山地の麓の野原でニンフ(妖精)たちと花を摘んでいました。
 すると、とある場所に、ひときわ美しい水仙の花が咲いているではありませんか。つい美しい水仙に魅せられたペルセポネは、その花を摘みたくなって、ニンフたちから離れてしまいます。

 と、その時です。急に大地が裂け、地の底から、ヨハネ黙示録の「死を司る第4の騎士」さながらの、黒い馬に乗ったハデスが現れたのです。そしてハデスは、次の瞬間ペルセポネをかっさらって、冥府に連れ去ってしまったのです。
 ハデスは以前から美しいペルセポネに目をつけ、自分の妻にしようと機会をうかがっていたのでした。

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ペルセポネの略奪 (レンブラント画)

 
愛する娘が行方知れずになったことを知った母デメテルは半狂乱になり、オリュンポスの神々に娘の行方を尋ねて回りました。その結果太陽神ヘリオスの語るところにより、娘は冥府に連れていかれたことを知ったのです。

 ゼウスの数多い“臨時妻”の一人だったデメテル女神は、すぐさまゼウスに抗議に向かいます。しかしゼウスはまったく取り合おうとしません。それどころか、「冥府の王であるハデスなら夫として不釣合いではあるまいて」と、平然と言い放ったのです。
 これを聞いたデメテルは、娘の略奪にゼウスも一役買っていたことを知り、激怒します。

 実は豊穣の女神であるデメテルはオリュンポスを去り、姿を隠し、大地に実りをもたらすことを止めてしまったのです。そのため地上は、たちまち大飢饉に見舞われる深刻な事態となってしまいました。

 一方冥府に連れ去られたペルセポネは、丁重に扱われたものの、自分から進んで来たわけではないため、冥王ハデスのアプローチにも首を縦に振ることはありませんでした。

 豊穣の女神デメテルのサボタージュに大弱りなのが主神ゼウスです。たまらず智恵の神ヘルメスを遣わし、ペルセポネを開放するようハデスに伝えました。ハデスもしぶしぶこれに応じ、ペルセポネは開放されることになります。

 その時ハデスは、ペルセポネにさりげなくザクロの実を差し出しました。それまでは頑なに拒み続けてきたペルセポネでしたが、ハデスが丁重に扱ってくれたこと、何より空腹に耐えかねて、ザクロの実にあった12粒のうち4粒(6粒とも)を食べてしまいます。
 これが実は、ハデスの巧妙な罠だったのです。

 こうしてペルセポネは母デメテルの許(もと)に無事帰還しました。しかし娘から「冥府のザクロを食べてしまった」ことを聞かされたデメテルの嘆くまいことか。
 我が国の『古事記』神話でも、黄泉の国(よみのくに)に身罷ったイザナミは「黄泉戸喫(よもつへぐい)」したため、自力では黄泉の国から出られなくなったのでした。オリュンポス神話でも、「冥界の食べ物を食(しょく)したる者は冥界に属すべし」という神々の取り決めがあり、そのためペルセポネは、イヤでも冥界に属さねばならぬ身となったのです。

 母デメテルは神々の法廷に進み出て、「娘は詐欺的行為により無理やりザクロを食べさせられたのだ」と、無罪を訴えます。しかし神々の取り決めを覆すことは出来ませんでした。ただ最終判決には恩情的なところもありました。
 判決主文にいわく、「一つ。被告ペルセポネは、食(しょく)したるザクロの数だけ、すなわち一年のうち三分の一(または二分の一)を冥府にて過ごすべし。二つ。残りの期間は地上にて過ごすを可とするものなり」

 こうしてペルセポネは、やむなくハデスの王妃として嫁いでいきました。その結果、母デメテルは娘が冥府にいる時期は、地上に実りをもたらすことを止めてしまったのです。これが、ギリシャ神話における「冬という季節」の始まりとされています。
 またペルセポネが地上に戻る時期は、母デメテルにとって喜びが地上に満ち溢れる季節、つまり「春という季節」なのです。そのことからペルセポネは、冥王の妻でありながら「春の女神」とも呼ばれています。

 (大場光太郎・記)

参考・引用
『ウィキペディア』-「ぺルセポネー」の項
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『ギリシャ神話』カテゴリー(直前の『オルフェウスの冥府下り』シリーズあり)
http://be-here-now.cocolog-nifty.com/blog/cat41440534/index.html

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コメント

 本記事は2012年12月4日公開でしたが、今回トップ面に再掲載します。

 実はこの記事、先週金曜日(27日)、当ブログアクセスで、トップ面とその日公開記事に次いで3位のアクセスになったのです。不思議に思い少し調べてみましたが、最近ゲームソフトで「ペルセポネ」シリーズが発売されたもののようです。またはそれを民放系テレビ局が取り上げたからなのかもしれません。

 当ブログ、最近はすっかり「政治ブログ」化し、『ギリシャ神話選』の続編などは出せていません。初めから終わりまで自前で記事を作成する時間的余裕がなかなか取れない事が理由ですが、内心忸怩たる思いもあります。ペルセポネとその母・デメテルについてはその後興味深い関連神話がある事を知りましたし、ギリシャ神話中の最大イベント「トロイア戦争」もまだ手付かずです。

 (余談ながら)共謀罪法を凶行施行し反政府系ネットに目を光らせている、暗~い安倍独裁政権が続く雲行きの中、中小ブログとはいえ多少過激な当ブログ、その筋からマークされている気配もうすうす感じられます。「ブログあってのモノ種」、少しずつ政治系とは無関係な記事も交えていくべきなのかなぁ、と考えている今日この頃です。 (2017.10.30 記)

投稿: 時遊人 | 2017年10月31日 (火) 02時56分

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