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フォレスタの「カスバの女」

-この歌をちあきなおみや八代亜紀らが歌い、そして今「吉田静のカスバの女」 !-

    (「フォレスタ - カスバの女」YouTube動画)
     (この歌の動画は削除されました。)

 私が「フォレスタ」というコーラスグループを知ったのは、女声フォレスタによる『別れのブルース』をたまたまYouTubeで聴いたのがキッカケでした。あの歌における吉田静さんの名唱、白石さん、矢野さん、中安さんのバックコーラスの素晴らしさにしびれ、早速『美しすぎる「フォレスタ」』記事としたのがそもそもの始まりでした。

 それは昨年1月14日のこと。それからちょうど満1年となる本日、またまた吉田静さんの新名唱『カスバの女』を取り上げられますことを、大変嬉しく思います。

 吉田静さんの独唱曲としては『雨のブルース』以来です。その後YouTube動画には吉田さん独唱曲が出ず、『あれっ、新編成になって、吉田さんの独唱はもう無しなのか?』と、ファンの私はやきもきしていたのでした。
 しかしそれは杞憂というもの。一段とパワーアップした歌唱力を魅せてくれているではありませんか ! それによく見ると、『別れのブルース』と同じステージ構成なのも嬉しい限りです。

 それにしても今回は『カスバの女』とは ! 驚きました。『忘れな草をあなたに』や『さくら貝の歌』や(直前記事にした)『揺籃のうた』など、どちらかというと清純なイメージの女声フォレスタにあって、いわく因縁ありそうな『カスバの女』。
 しかしこれから見ていきますが、この歌が良い歌であることに変わりはなく、フォレスタの新領域への果敢なチャレンジ精神に敬意を表させていただきます。

 それを可能にしているのが吉田静さんです。はっきり言って、こういう歌は吉田さんの独壇場だと思います。もちろん皆さんプロの声楽家ですから当然歌おうと思えば歌えるわけですが、要は「歌の雰囲気にマッチするか否か」ということなのです。

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 ここからしばらく、『カスバの女』にまつわる話を述べていきます。
 
 私は、以前観た名画『望郷』から、この歌はこの映画をイメージして作られたものとばかり思っていました。『望郷』をご覧になった方はお分かりかと思いますが、あの映画もこの歌と同じく、アルジェリアの首都アルジェの「カスバ」が舞台なのでした。
 『望郷』(1937年公開)は、往年の名優ジャン・ギャバン演ずる犯罪者のぺぺ・ル・モコが、故国フランスの追っ手から逃れて、当時フランス領だったアルジェリアのカスバを根城としていたのです。

 あの映画のカスバは路地が複雑に入り組み、諸国からの流れ者が隠れ棲むには格好の場所として描かれていました。その迷路性、猥雑さ、怪しげなところが、『カスバの女』のどこかデカダンな雰囲気に相通じると感じたのです。

 しかし今回分かったことには、『カスバの女』は『望郷』とは直接的な関係はなさそうです。実際は、1950年~60年代初頭の「アルジェリア独立戦争」が背景なのです。第二次世界大戦後、他の欧米列強植民地が次々に独立していったのと同じく、ここアルジェリアでも、フランスからの独立を求めてアルジェリア民族解放戦線(FNL)が首都アルジェの「カスバ」を拠点にゲリラ戦を展開していたのです。

 この歌の「カスバの女」は、アルジェリア女性ではなくフランス女性です。2番で明かされているとおり、わけあってパリから流れてきたのです。
 セーヌのたそがれ、瞼の都、シャンゼリゼ、赤い風車。「赤い風車」について少し説明すればー。赤い風車を意味する元々のフランスでの呼称は「ムーラン・ルージュ」、パリはモンマルトルの丘にある有名なキャバレーです。
 1889年に誕生し、画家のロートレックがここに通いつめ、踊り子たちをモデルに数々のポスターを描いています。またエルビス・プレスリーやフランク・シナトラら多くの著名なミュージシャンが、ここで活躍していました。

 この歌のヒロインは、かつてその「赤い風車の踊り子」だったのです。華やかな彩りに包まれていた若い頃。しかし今は「売られて」、フランスとは地中海の対面にあるアルジェのカスバの酒場で世をしのいでいる・・・。
 その落差ゆえのペーソス、遠いパリへの望郷ゆえのメランコリー。これが基調にあって、この歌をより魅力的なものにしているように思われます。

 そんなカスバの女の恋と言えば、たまたま女がいる酒場を訪れた外人部隊の兵士との「一夜の火花」。ここで言う外人部隊とは、フランス軍に雇われた対FNL討伐部隊を指しています。しょせん二人とも「買われた命」。相手はたちまちどこかの国に行ってしまい、「ないて手をふる」ことになるうたかたの恋にすぎないのです。

 なおアルジェリア独立戦争の帰趨についてですがー。
 紛糾の末フランス本国政府は、大統領に就いた(ナチスドイツからフランスを開放した救世主の)ドゴールの決断によって、アルジェリア撤退とFNLによる独立を認めました。
 それによってドゴール大統領は、アルジェリアに多数入植していたフランス人(コロン)のテロ組織OASから命を狙われることになります。そのドゴール暗殺計画を息詰まるサスペンスで描いたのが、フリデリック・フォーサイスのスパイ小説『ジャッカルの日』で、これは映画化もされ世界的に大ヒットしました。

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 『カスバの女』は昭和30年(1955年)、独立系の芸術プロの映画『深夜の女』の主題歌(作詞大山ひさお、作曲久我山明)として作られました。歌ったのは、低いアルトで優れた歌唱力の持ち主だったエト邦枝(えと・くにえだ)です。
 しかし同映画はなぜか公開中止となり、エトの歌もまったく話題となりませんでした。当時一部の左翼系知識人の間でアルジェリア独立戦争は関心を持たれたものの、歌謡曲の『カスバの女』には関心が寄せられなかったのです。

 失意のうちにエト邦枝はほどなく歌手を引退し、観光バスガイドの指導を10年間務め、ガイドたちにこの『カスバの女』を教えました。教わったガイドたちがバスの乗客たちに広め、乗客たちが飲み屋などでまた広め、それを聴いた友人・知人たがさらに広め・・・。この歌がじわじわ世間に浸透していき、12年後ヒット曲として大ブレークしていくことになったのです。

 昭和42年(1967年)、突如『カスバの女』はテレビやラジオの歌番組で歌われ出します。当時の有名歌手が競って番組で歌ったのです。
 ちょうどその頃はベトナム反戦運動が、欧米先進国や日本で燃え盛っていた時期でした。まさに「時代がこの歌を求めた」と言えます。

 なお補足として、「カスバ」の現在のようすを記しておきます。
 カスバは、中東のどこの国にも広く存在するイスラム教における都市形態です。おおむね小高い丘陵地帯に築かれ、頂上にはイスラム寺院のモスクが建っており、カスバの入り口はモスクへと通じる道でもあるのです。
 アルジェリア独立後のカスバには、フランスから流れてきた酒場の女も、母国の追っ手を逃れてやってきたお尋ね者ももういません。今では、敬虔なイスラム教徒たちの住む平穏な街なのです。

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 以上で述べたとおり、『カスバの女』は元のエト邦枝をはじめ、昭和42年以降緑川アコ、青江三奈、ちあきなおみ、藤圭子、八代亜紀らによって歌われています。そしてこのたびフォレスタの吉田静さんが歌ったことにより、その系譜に連なることとなりました。
 それぞれ歌い方には個性や特徴があり、甲乙などつけるべきではありません。しかし吉田静さんの歌唱力は折り紙つきで、それら錚々たる先輩歌手と比較して勝るとも劣らないレベルだと思われます。

 たまたまYouTube動画に「ちあきなおみのカスバの女」がありましたので聴いてみました。確かにコブシを効かせたうまい歌い方ですが、国内基準の演歌調と感じました。その点元々クラシック歌手の「吉田静のカスバの女」は国際基準。
 仮に、吉田さんはじめ白石佐和子さん、内海万里子さん、上沼純子さん、そして「可愛いピアニスト」吉野翠さんが、本場パリのムーラン・ルージュでこの歌を披露したとしたら?ケルテックウーマンなどとは趣きを異にした「なでしこフォレスタ」の歌唱に、観客総立ちなのではないでしょうか !

 『別れのブルース』の『雨のブルース』の、そしてこの歌の吉田静さんにはある種の「凄味」を感じます。美空ひばりや淡谷のり子などは別格としても、歌手として大成するのに、これは欠かせない要素の一つだと思うのです。

 (大場光太郎・記)

参考・引用
本記事は『ウィキペデア』の各項と、幾つかの他のサイトを参考にまとめました。特に次のサイトを大いに参考・引用させていただきました。
『自費出版のリパブリのブログ』-『「アルジェリア独立戦争」の悲恋を歌った「カスバの女」を大ブレークさせた時代背景』
http://ameblo.jp/kawai-n1/entry-10509646515.html
関連記事
『美しすぎる「フォレスタ」』
http://be-here-now.cocolog-nifty.com/blog/2012/01/post-1920.html
『フォレスタの「雨のブルース」』
http://be-here-now.cocolog-nifty.com/blog/2012/10/post-01d0-1.html

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