「国語力は生きる力」考
友よ、生きるほどますます学ぶ。 (19世紀インドの大聖ラーマ・クリシュナ)
「国語力とは生きる力」。当ブログを以前からご訪問の方の中には、この言葉をご記憶の方がおられるかもしれせん。昨年7月の『続・「銀の匙」と灘校名物国語教師』記事でご紹介した、元灘校国語教師・橋本武先生の言葉なのでした。同記事から、その部分をもう一度掲載してみます。
では、橋本先生が生徒たちに植え付けた一番の財産とは何だったのでしょうか?
「“学ぶ力の背骨”です。国語力のあるなしで、他の教科の理解度も違う。数学でも物理でも、深く踏み込んで、テーマの神髄に近づていこうとする力こそ国語力です。それは、“生きる力”と置き換えてもいい。」 (引用終わり)
実は橋本先生のこの言葉を紹介した私自身、この中で言われている「国語力は“生きる力”と置き換えてもいい」という箇所が、ずっと気にかかっていたのです。しかし、
「深く踏み込んで、テーマの神髄に近づていこうとする力 = 国語力 = 生きる力」?つまりは、「深く踏み込んで、テーマの神髄に近づていこうとする力 = 生きる力」??
なぜ、そうなるのだろうか。私にはどうもいま一つしっくりと理解できなかったのです。現に生きている私たちに「生きる力」は不可欠です。それに「国語力」が関わっているとしたら、事は重大です。
そこで、折りに触れて思い出してはあれこれ考えてきたのでした。
「今回この一文を出すからにはしっかり解ったんだろうね」。いえいえ、決してそうではないのです。本当の答えは橋本先生にしか解らないのかもしれませんし、「こうではあるまいか」という拙い推論を述べていくものです。
一般的に国語力とは、読解力や文章作成力などとされています。しかし橋本武先生はそういう通念を超えて、「深く踏み込んで、テーマの神髄に近づていこうとする力こそが 国語力」というのです。
それは「物事の本質に深く迫り、把握する力」と置き換えてもいいのかもしれませんし、それこそが本当の意味での読解力と言えるのかもしれません。
自称「森羅万象探求者」の私が考えますにー。
それは単に文献やテキストにだけ当てはまるのみならず、日常で出会い目にする万象万物により深く踏み込み、そこに隠された新たな意味を発見する、というように応用可能です。
古くからの人間関係に新しい意義を見出す、普段見慣れた街並みのほんの些細な何かに美を見出す・・・というように。
物事の本質やテーマに「深く踏み込む」「深く迫る」。ここで私は以前何かの記事で紹介した、
進化 = 深化 = 新化 (= 神化)
という図式が思い出されました。(「神化」は、今回とは別に考えるべき問題なので、()でくくり、以下省略します。)
今回は「深く」を問題にしていますから、これを次のように並べ換えてみます。
深化 = 新化 = 進化
深化しようとする力、つまり橋本先生流の表現の「深く踏み込んで、テーマの神髄に近づていこうとする力」は、言い換えれば「新しくする力」とも言えそうです。物事に「深く踏み込む」ことによって、それまでとは違った新しい側面が見えてくる、それによって物事を新しい角度から解釈できる、それを土台として新たな精神的ステージに立てる、ということなのかもしれません。
ここで私は今読みかけの(20代半ば頃読んだ本の再読)、イギリスの作家コリン・ウィルソンの『賢者の石』(創元社推理文庫)という本の印象に残った一節を思い出しました。それは、
「新しさが生(せい)の原理である」
というものです。
この『賢者の石』は、地球年代記、人類進化など壮大なスケールのSF小説で、図らずも不老不死も重要なテーマであることはさておき。この一節とは逆に、
「停滞と無力感は死に至る公式です」
という誰かの言葉もあります。
私たちの内なる生命活動は停滞つまり古くささを嫌い、常に新鮮さ、新しさを求めるもののようなのです。そこでより新しくあるためには、、「深く踏み込んで、テーマの神髄に近づていこうとする力」が要求されてくるわけです。
ここにおいて、橋本先生の「国語力は生きる力」というのが納得されてくるのです。
同記事最後でご紹介したとおり、橋本先生は昨年百歳をお迎えになられました。
現在我が国には百歳以上の人が3万人以上いるそうですが、残念ながらそのうちの7、8割の人たちは寝たきり状態だといいます。その点橋本先生は今なお矍鑠(かいしゃく)としておられ、現役に近いような規則正しい日常生活を続けておられます。
橋本先生自らが、「国語力は生きる力」を身をもって示しておられるようです。
(大場光太郎・記)
関連記事
『続・「銀の匙」と灘校名物国語教師』
http://be-here-now.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/post-7a08.html
『生きることは学ぶこと』
http://be-here-now.cocolog-nifty.com/blog/2010/07/post-5a68.html
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