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フォレスタの「早春賦」

-早春と言えば『早春賦』。毎年今頃の季節、無意識のうちにこの歌を口ずさむ-

    (「フォレスタ 早春賦」YouTube動画)
     https://www.youtube.com/watch?v=QNOLRSOI99w
          

    早春賦   作詞:吉丸一昌、作曲:中田章

 春は名のみの 風の寒さや
 谷のうぐいす 歌は思えど
 時にあらずと 声もたてず
 時にあらずと 声もたてず

 氷融け去り 葦はつのぐむ
 さては時ぞと 思うあやにく
 今日も昨日も 雪の空
 今日も昨日も 雪の空

 春と聞かねば 知らでありしを
 聞けばせかるる 胸の思いを
 いかにせよとの この頃か
 いかにせよとの この頃か

 この歌は郷里にいた十代の頃から好きな歌でした。

 以前の『早春賦』記事でも述べましたが、高校2年の音楽の最後の授業で、一人ひとりが前に出て歌を披露することになりました。若い頃は東京で活躍していたという50代の女の音楽の先生が、「何でもいいから各自好きな歌を」ということだったのです。
 男子は『二人の世界』『霧の摩周湖』といった当時流行っていた歌を歌う中、ひとり私は大まじめでこの『早春賦』を歌ったのです。(後で歌った女子の中にこの歌を歌った人がいて、『オレよりうまいぞ』と思って聴いていました。)

 時は2月中旬、東北は山形の高校のこと。教室の周りのグランドなど(校歌にも歌われている)「早苗が原」一面はまだ深い根雪に覆われていました。
 長い根雪に閉ざされた先の雪解(ゆきげ)の春、それは輝くような芽吹きの春、万物の蘇えりの季節。雪国に住む者にとって春はひときわ待ち望まれる季節なのです。
 そういう気持ちをこの歌に託したのだったか、多感だった当時の私にとって、この歌はその時の感性に適った歌だったのか。今となっては高校時代の懐かしい思い出の一つです。

 「春待ち歌」は多くあるのでしょう。しかし早春の歌と言えば『早春賦』というほど、大正2年に作られたこの歌が真っ先に浮かんできます。早春の頃の季節感をこれほど見事に描ききった歌は他にないのではないでしょうか。
 『早春賦』は、2007年の「日本の歌百選」に選定されました。

 先日の『立春大吉』記事でこの歌の歌詞を掲げ、この歌について述べました。この記事に、フォレスタファンで長野県在住の「みすず」さんよりコメントをいただきました。そのラストの部分を以下に掲げさせていただきます。

長野県 安曇野市では、毎年4月末に「早春賦を歌う集い」があるようです。 信州住まいの私、一度行きたい…と思いながら果たせないでいます。 (転載終わり)  

 私は「そう言えばこの歌の歌詞は、信州安曇野が舞台だったのではなかったでしょうか?『フォレスタの「早春賦」』作成まで調べておきます。」と返信しました。その後調べましたら、やはりそうだったのです。

 この歌を作詞した吉丸一昌(よしまる・かずまさ)は当時「尋常小学唱歌」の作詞委員会代表でしたが、大正初期の早春の頃長野県安曇野を訪れ、穂高町あたりの雪解け風景に感銘を受け、この歌の詩を書き上げたのです。
 今の私たちには作り得ない格調高い文語体のこの歌詞、大町文化会館、穂高町の河川敷に歌碑が建っているそうです。そしてみすずさんによりますと、安曇野市では毎年4月末「早春賦を歌う集い」が催されているわけです。

 なお「賦」とは、元々は対句の形を取り、脚韻を有する長い漢文を意味していました。以前の『赤壁』記事でも触れた『赤壁賦』が代表例です。
 転じて「長い詩歌」をも表わすようになりました。『早春賦』とは「早春に賦す」の意味になります。

 この歌を作曲したのは中田章(なかだ・あきら)です。『雪の降る街を』『夏の思い出』『小さな秋見つけた』を作曲した中田喜直の父です。中田喜直は春の歌も作っていますが、「私には、父の『早春賦』を超える春の歌を作ることはできない」と語っていたそうです。
 まさにこの歌詞にしてこのメロディあり。詞曲一体となった名曲です。

                      *
 この『早春賦』を、男声フォレスタが歌っています。これにつきましては、先ほどの「みすずさんコメント」の前半部を再び引用させていただきます。

♪早春賦。。。立春の声を聞くと、私もこの歌が聴きたくなります。 仰る通り、歌詞と言いメロディーと言い本当に素晴らしいと思います。
女声のみ、あるいは混声でしかお聴きしていませんでしたが、男声FORESTAでお聴きした時、とても新鮮に感じました。
男声だけでも素敵なんですね。。。♪
静さんの♪早春賦。。。私もお聴きしたいです。 (転載終わり)

 みすずさんのこのコメントだけですべて言い得ていると思います。と申しましても、それでは何ですから私からも一言、二言。

 1番前半は榛葉樹人さんと澤田薫さん(テノール)という高音の2人による歌唱、後半は川村章仁さん(バリトン)今井俊輔さん(バリトン)、大野隆さん(バス)という低音の3人が加わった全員コーラス。2番は川村章仁さんと榛葉樹人という高低2人による歌唱。3番は5人全員によるコーラス。
 一つの歌でさまざまに趣向を変え、コーラスの良さ、面白さをうまく演出しているように思われます。詩情豊かで重厚な『早春賦』です。余計なことながら、男声では珍しい白いスーツも新鮮です。

 思えば、ダークダック、ボニージャックス、デュークエィセスなど往年の名コーラスグループが高齢化した今、我が国を代表する男性コーラスグループは「男声フォレスタ」をおいて他にないのではないでしょうか。

 なお、「静さんの♪早春賦」というのは、言うまでもなく吉田静さんを指しています。1月中に行われた(フォレスタ外の)2つのコンサート両方で『早春賦』を歌われたのです。それで「聴きたかったなあ」と本文で述べたのでした。
 (余談ついでに)あろうことか吉田さん、この歌以外にも『朧月夜』『ゴンドラの唄』『アカシヤの雨がやむとき』『別れのブルース』など、私の聴きたい歌ばかりピックアップしてお歌いになったのです(笑)。

 それはともかく。次は「撮り直し」で、吉田さんのソロをメーンとした女声フォレスタの『早春賦』も聴いてみたいものです。

【追記】私も今回初めて知ったことを付け加えておきます。
 この歌のメロディは、モーツァルトの歌曲『春への憧れ』(k596)及び同じモチーフを使った『ピアノ協奏曲第27番(第3楽章)』(k595)との曲想の類似が指摘されているようです。
 私も少し聴いてみましたがなるほど似ているところもありそうです。中田章にはこの両曲が念頭にあったのは間違いないのではないでしょうか。しかし盗作というようなものではないと思います。中田章の心象の中でしっかり咀嚼され、日本の風土にマッチしたメロディとして生まれ変わった、と言った方がよさそうです。
 古来我が国は外来の事物を取り入れ、禅や茶道など独自の文化にまで高めてきました。そのような不思議な吸収・同化作用が、この歌のケースでも当てはまりそうです。
 「遠い東洋の国で、わが曲がこんな形で甦ろうとは」と、大モーツァルトも大いに満足しているのではないでしょうか。

 (大場光太郎・記)

参考
『メッツォ・ソプラノ吉田静のビタミンCちゃん日記』-「テーマ【演奏会】」
http://ameblo.jp/yoshizuyoshi/theme-10028782282.html
『モーツァルト「春への憧れ」』(YouTube動画)
https://www.youtube.com/watch?v=7g8b_U1xusE
『モーツァルト「ピアノ協奏曲第27番』(YouTube動画)
http://www.youtube.com/watch?v=YTjPRkbVavs
関連記事
『早春賦』
http://be-here-now.cocolog-nifty.com/blog/2009/02/post-c727.html
『立春大吉』
http://be-here-now.cocolog-nifty.com/blog/2013/02/post-47bf.html

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コメント

♪早春賦にまつわるお話し、興味深く楽しく読ませていただきました。 「早春賦を聴きたい…」の想いがより一層深くなっています。
男子生徒さんが♪早春賦を歌われる…、以外でしたが(失礼m(__)m)素敵なお話しですね(*^_^*)
好きな歌を歌わせて下さった先生も素晴らしいですね。

昨日、明るい陽射しの入る午後、YuoTubeの中にある様々な演奏でのこの歌を聴いていましたら、宗次郎さんのオカリナでの演奏に行き当たりました。 素朴であたたかな響きで素敵な演奏でした♪

つたないコメントをしましたのに、記事にしていただきありがとうございました。

投稿: みすず | 2013年2月18日 (月) 22時44分

みすず様
 どうもありがとうございます。
 私の方こそ無断で貴コメントを転載させていただき、ありがとうございました。
 ええ、男子生徒のこの私、大まじめでこの歌を歌いました。当時と今と身長はほとんど変わらず、フォレスタで言えば榛葉樹人さんと同じくらいでしょうか?そこで榛葉さんばりの美声で・・・と言いたいところですが、もちろん雲泥の差、緊張しまくりで何とか歌い終わりました。
 この女の音楽の先生はいわゆる名物先生で、仔細は忘れましたが、けっこう面白い授業だったと記憶しています。
 そうですか、この歌の宗次郎のオカリナ演奏が。どんな感じなのでしょう。早速検索で探して聴いてみます。
 フォレスタ記事など、またお気軽にコメントしてください。

【追記】19日0時20分
 『宗次郎の「早春賦」』聴きました !
 朗々としたオカリナの音色、いいですね。澄明で、でありながらどこか哀愁を帯びていて、懐かしさと郷愁を感じさせる「早春賦」です。
 書き忘れましたが、長野は雪が残っているのでしょうか?だとしたら、「雪解けの春」が望まれますね。

『オカリナ 宗次郎/早春賦』(日本の歌 こころの歌3)
http://www.youtube.com/watch?v=IGbMDG539f0

投稿: 時遊人 | 2013年2月18日 (月) 23時43分

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