« チェーホフ『桜の園』 | トップページ | 安倍“特高”政権で強まる言論統制 »

「花いちもんめ」のことなど

  村境の春や錆びたる捨て車輪ふるさとまとめて花いちもんめ   寺山修司

 今月の11日に引越してから2週間、おかげ様で徐々に新住居での生活環境が整いつつあります。

 旧住居も当厚木市の郊外に近いところでした。そこから1キロとは離れていないものの、この付近はさらに一歩郊外感が増したような所です。とは言うものの市街化区域であることに変わりはなく、どこもかしこも立錐の余地もないほど住宅が建て込んでいます。
 ただ少し高台の新住居地から西に百メートルも行かないうちにガクンと下段となり、それから西向こうはしばらく市街化調整区域、田んぼなどが広がり家は疎らになります。

 その境目の所に近年市営球場が建てられたのです。つまり新住居となる○○荘のすぐ近くに球場があるのです。
 これだって今に至る市財政赤字の元となった箱物の一つに違いなく、プロ野球だって呼べそうな立派な施設と広さで、でっかいナイター照明が8基ほどにょきにょきと聳え立っています。
 グランドの一部が新住居前の道から見られ、青々とした芝生の上で球児や市民らが動き回っている姿を垣間見ることもあります。日曜日には威勢のいい掛け声が聞こえてきたりします。平日の夜でも練習していることがあり、9時頃までナイター照明が灯っていて、その頃帰宅するとドストライクの眩しい光を投げつけてきます。

 新住居の周辺は閑静な住宅街で、昭和52年築の我がアパートだけが例外で隣接している家は皆立派です。東角の私が借りた部屋のお隣さんもそうで、けっこう広い庭があり手入れの行き届いた花々がいっぱいあります。
 私もかつて下手の横好きで通信教育のガーデニング講座をかじったことがありますので、外出時フェンス越しのその庭を眺めながら道に出て行きます。いつかの正午過ぎには私より少し年配くらいの奥さんが花の手入れ中でした。犬が吠えたので、「こら、静かにしなさい」と言いつつ「どうもすみません」というので、私も軽く挨拶しながら通りました。

 アパートの北隣は車が何十台も置けそうな広い土の駐車場です。ネットフェンスの一部が開いていてアパートからも行き来できます。この駐車場の中ほどに立って西の方を望むと、市民球場の西の彼方に大山(おおやま)の雄大な全容とその右に連なる丹沢連峰がくっきりと眺められます。
 『安アパートにしては贅沢な借景だぞ』と、一人悦に入りながら眺めています。

 反対の南側には住宅地の道路があり、その向こうには広い公園があります。さらに向こうは3階建形式の団地群が十何棟か連なっています。
 主にそこの子供たちなのでしょう。公園の一部には滑り台やブランコなどがあり、それらの遊具やグランドで遊び回って遊んでいる元気な姿がよく見られます。

 同公園の向こう際に、数本の染井吉野が植えられています。私の住居はアパートの2階角ですが、張り出したベランダのある南側の窓越しにそれがよく見えるのです。だから契約後下見をした今月上旬、そこから桜の木を見た時は、これぞ借景、『どこにもお花見に行かなくても花が見られるぞ』と思ったものでした。
 それが今年はお彼岸の中日前には開花し、3月下旬の今が満開、いな既に散り始めているのですから。

 別に事務所を借りる余裕も仕事量もない私は、以前からずっと自宅で仕事をしてきました。新住居で事務室に充てたのは中ほどの4.5帖の洋間です。ここが知恵の絞りどころ、ここにいかに効率よく事務机や本棚などを収納するかが問題でした。
 結果ぎゅうぎゅうにモノを詰め込んで、未だ雑然としながらも何とか業務の出来る態勢になりました。

 25日(月)夕方この部屋で仕事をしていました。市内に隈なく網羅された当市防災無線スピーカーから、夕刻を告げる「夕焼け小焼け」のチャイムが流れてきました。これはブログ開設年に『厚木市と♪夕焼け小焼け♪』シリーズで紹介したとおり、厚木市で戦前から後半生を過ごしたこの名童謡の作詞者の中村雨虹(なかむら・うこう)に因んだものです。
 春と秋は夕方このメロディが鳴り出すと、時刻はちょうど5時なのです。

 このメロディが流れてほどなく、女の子たちの元気な声が公園の方から響いてきました。
  ♪勝ってうれしい花いちもんめ、負けて悔しい花いちもんめ、隣のおばさんちょっと来ておくれ、鬼が怖くて行かれない、・・・ ・・・ あの子が欲しい、あの子じゃ分からん、この子が欲しい、この子じゃ分からん、相談しよう、そうしよう

 『あゝ、花いちもんめかぁ』
 声はすれども姿は見えず。子供の声は高くてよく徹ります。分けても女の子の声は。

 それにしても嬉しいではありませんか。21世紀の現代っ子たちがこんな昔のわらべ歌を歌いながら遊んでいるなんて。親が教えたのか、学校で教わったのか。とうに歌われなくなって、今では滅びたも同然と思っていたのに・・・。

 花曇りの花冷えの夕方、女の子たちは元気いっぱい「花いちもんめ」を15分ほども歌っていました。そのうちサーっと潮が引くように、女の子たちの「勝ってうれしい花いちもんめ ・・・」の声が聞かれなくなりました。
 辺りは静寂になり、俄かに外が暮色に包まれた気配を感じました。

 (大場光太郎・記)

|

« チェーホフ『桜の園』 | トップページ | 安倍“特高”政権で強まる言論統制 »

日々のこと」カテゴリの記事

コメント

初めまして、お花好きのりんどうといいます。

大場さまのブログをいつも読ませていただいているものです。

「はないちもんめ」は一人の作家の小説を読んでいるようでいるようで、心が温まり、微笑ましく郷愁を誘いました。

大場さまにとって桃源郷のような郊外に引っ越しなさったのですね。

さぞ、至福の時を過ごされていることでしょう。

そんな大場さまの生き方に感銘を受けている私です。

そして.…『吉田静』さんの大ファンです。笑

よろしくお願いいたします。

投稿: りんどう | 2013年3月26日 (火) 12時16分

りんどう様
 コメント大変ありがとうございます。
 2時半過ぎにバスで本厚木駅に出て、JR相模線乗り換えの海老名市内の会社を訪問しました。車で移動すれば簡単なのですが、2年前肝心の車を手離したのが辛いところです。
 夕方所用が済んで本厚木に戻り、駅周辺で道草してしまいました。と申しましても、クラブなどでの高級な遊びの出来ない私は、ヴェローチェなどのコーヒーショップで安いコーヒーを飲みながら、ささやかな「至福の時間」を過ごすのです。帰宅したのが深夜の11時過ぎ、返信が遅くなり申し訳ございません。
 以上長ったらしい言い訳でした。

 りんどう様。いつもご訪問いただき、このたびは過分なるお褒めと共感のお言葉をいただき、重ね重ねありがとうございます。
 「お花好き」大変いいですね。花を愛でる人は無条件で「良い人」というのが私の認識です。
 
 この拙文「作家の小説のよう」とのご評価には、中学生からの若い頃密かに「作家」「小説家」を夢見ながら、短編の「たの字」も書けなかった私としては赤面の至りです。ただこのブログは、その時に果たせなかった「物書き願望」の代償作用のようなところも確かにありそうです。
 今後ともお読みになられた皆様に少しでも共感いただけますよう、心がけてまいりたいと存じます。

 「明るくていい気分より大切なことは何もない」
 これは昨年から読み出した『引き寄せの法則』の一冊のテーマとも言えるもののようです。「明るくていい気分」を保ち続けていれば状況は間違いなく良くなる、というのです。なぜなら「それが法則だから」と。
 シンプルな言葉ながら、そういう思考になじんでいなかった私には衝撃的でした。
 以上ご文から、最近はなるべく現在身を置いている環境、日々出会う出来事の「肯定的な面」「明るくていい面」を見るようにしています、ということを言いたいのでした。

 吉田静さんの大ファンとは嬉しいです !
 彼女には、単にフォレスタの枠に収まらない大きな可能性を感じるのです。というようなことを言いますと、フォレスタ全体と吉田さんご本人に迷惑をおかけしそうなので、フォレスタ記事では控えていますが・・・。
 
 これに懲りませず、またお気づきのことがございましたら、お気軽にコメントください。 

投稿: 時遊人 | 2013年3月26日 (火) 14時24分

大場さま
 ご丁寧なお返事をどうもありがとうございました。
お返事の中で『明るくていい気分より大切なことは何もない』というフレーズに共感し、お気軽にというお言葉に甘えて、再度コメントさせていただきました。

実は息子家族が先週遊びに来て、具体的なことは言わず、上司と軋轢があることをほのめかしたのですが、何も言ってあげられなかったのです。翌日になって、私はメールで「〇太郎は子供の頃は明るくて思いやりのある子だったので、その場をあかるくして、自分も明るく元気でいれば、周りの人もついてくると思いますよ」と打ったのです。
息子への伝言と大場さまからいただいたお返事の主旨の偶然の一致をみて、とてもうれしく思いました。
『明るくていい気分…』はシンプルではありますが、含蓄のある言葉ですね。教えてくださって
ありがとうございます。
早速『引き寄せの法則』を読んでみようと思います。また息子にも薦めて見ようと思います。
ご立派な大場さまに初コメントするのには勇気がいりましたが、今ではコメントさせていただき、良かったと心から思っています。

(息子の名前は長男は〇太郎、次男は〇二郎
孫が〇太郎と〇太郎、〇太と〇介です。笑)
大場さまのように立派な人になれますように…。

投稿: りんどう | 2013年3月30日 (土) 01時06分

りんどう様 こんにちわ
 重ねてのコメントありがとうございます。
 『引き寄せの法則』は、米国発の世界的ベストセラーで本当に素晴らしい本(シリーズ)です。私は切実なので特に『お金と引き寄せの法則』をナポレオン・ヒルの『思考は現実化する』と共に座右の銘にしています。
 飲み込みの悪い私は、現在15回目を読んでいますが、読むたびに「新たな気づき」が得られます。「明るくていい気分より大切なことは何もない」は、この本のテーマです。「お金」以外にも健康などもテーマで、スピリチュアルな観点から示された実生活に即役立つ本です。

 「○太郎」さん、「○二郎」さんという立派なお子さんをお持ちでお幸せですね。息子さんたちにも是非『引き寄せの法則』(ソフトバンク・クリエィティブ刊)薦めてください。現実のビジネスの場でも必ず役に立つはずです。
 今は「太郎」という名前は少なく、郎を取って例えば「光太」とするケースが多いようですが、貴家ではお孫さんまで「○太郎」ちゃんが多く、同じ太郎名として嬉しく思います。大勢の元気なお孫さんに囲まれてお幸せですね。

投稿: 時遊人 | 2013年3月30日 (土) 15時34分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« チェーホフ『桜の園』 | トップページ | 安倍“特高”政権で強まる言論統制 »