フォレスタの「君の名は」
-昭和30年代少年も知っていた、伝説のドラマ『君の名は』や「真知子巻き」-
(「フォレスタ 君の名は」YouTube動画)
http://www.youtube.com/watch?v=B1t-n0wZpgI
直前のフォレスタ記事『フォレスタの「フランチェスカの鐘」』は、作詞が菊田一夫、作曲が古関裕而で、このコンビによる歌として『君の名は』があることを挙げました。
折角の機会ですから、今回はその『フォレスタの「君の名は」』を取り上げていきたいと思います。
この歌は、年配の方ならどなたもご存知かと思いますが、昭和27年(1952年)4月10日から29年(1954年)4月10日までのNHKラジオドラマ『君の名は』(作者は同じく脚本家の菊田一夫)の主題歌として歌われたものです。
当時はテレビがまだ普及していなかった時代で、それだけにこのラジオドラマの反響は凄まじく、伝説として「番組が始まる時間になると、銭湯の女湯から人が消えた」と言われるほどでした。(注 ただしこのエピソードは、先行するアメリカのラジオ番組での同様の事実をもとに、松竹宣伝部がこしらえた虚構らしい。)
歌自体もさることながら、前奏で語られる、
「忘却とは忘れ去ることなり。忘れ得ずして忘却を誓う心の悲しさよ」
という名台詞(フォレスタ歌におけるナレーターは石川牧子アナ)は、その後各方面で語られ、引用されました。
この歌をより深く味わうためにも、背景となったドラマのあらすじを見ていくことにしましょう。
日米戦争末期の昭和20年(1945年)、いよいよ日本の心臓部である首都東京への米軍機の空襲が激しくなりました。中でも同年3月10日の東京大空襲は被害規模、死者数において最大でしたが、この物語の発端となった空襲はその最後となる5月26日の大空襲です。
B29から投下される焼夷弾が降り注ぐ中、たまたま一緒になった見知らぬ若い男女、氏家真知子と後宮春樹は助け合って戦火の中を逃げていき、銀座の数寄屋橋(すきやばし)にたどり着きます。
空襲が収まった翌朝、二人はようやくお互いの無事を確認し合います。名を名乗らないまま、お互いに生きていたら半年後、それがだめならまた半年後にこの橋で会おうと約束し、そのまま別れます。やがて、二人は運命の渦に巻き込まれ、お互いに数寄屋橋で相手を待つも再会が適わず、やっと会えた頃には真知子はすでに人妻となっていたのでした。
しかし、夫との生活に悩む真知子、そんな彼女を気にかける春樹、二人をめぐる人々の間で運命はさらなる展開を迎えていくことになります。
「半年後にこの橋で会いましょう」「ダメなら次の半年後に」と、お互いの名さえ名乗らず・・・。とっくにドラマが終わった昭和30年代半ば頃、私は小学校高学年でしたが、なぜか『君の名は』の二人の男女のすれ違いの話は知っていました。そして子供ながらに『ホントだべが?』と思ったものです。
ましてや、ケータイメールなどでお互いが全国どこにいても瞬時に意思のやり取りできる、偉大なテクノロジーの進化のこの時代。今の若い人たちはなおなお「信じらんな~い」「マジありえねぇ~」の世界でしょう。
しかしこの(今となっては)古典的な「行き違い」「すれ違い」の男女の愛の形が、当時はバカ受けしたのです。やはり大きかったのは、戦時中それも大空襲という極限状態での巡り合いという劇的な導入設定が大きかったと思われます。
昭和27、8年はだいぶ復興の形が見えてきたとは言え、傍らには依然として戦争の傷跡が生々しく残っていたことでしょうし、何より身内の誰かを必ず戦争で失った人々の心の傷が癒えることはなかったでしょう。感情移入は切実なほどに容易だったのではないでしょうか?
以前何かで、このドラマはアメリカ映画『哀愁』がヒントになった、と読んだことがあります。言われてみれば・・・。第1次世界大戦で大陸に出征直前の英国将校クローニンが踊り子マイヤと出会ったのは、ロンドンはテムズ川にかかる夜霧立ち込めるウォータールー橋なのでした。
わたくし的に『哀愁』は世界名画中のベスト5に入りますが、この映画も「行き違い」「すれ違い」が二人の運命を大きく変えることになったのでした。
なお言えば、映画のラストも夜霧の同橋の中。今度は第2次世界大戦での大陸出征直前。遠い昔に「ここで」死んでしまったマイヤの形見を手にしてしみじみ見つめるクローニン・・・。
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『君の名は』はすぐに映画化されました。ラジオドラマが開始された翌年の昭和28年(1953年)から29年(1954年)の松竹作品としてです。全3部作で通して上映すると6時間を超えることから、のちに総集編も出されました。
監督;大庭秀雄、脚本;柳井隆雄、原作;菊田一夫、音楽;古関裕而。主演は氏家真知子役に岸恵子、後宮春樹役に佐田啓二という当時を代表する美人、美男俳優です。淡島千景、月丘夢路、笠智衆など懐かしの名優が脇を固めています。
この映画から流行したのが「真知子巻き」です。これは主人公の独特なショールの巻き方が女性の間で大流行したものですが、演じた岸恵子にはそうしなければならない切実な事情があったようです。
映画は原作に合わせて、北海道美幌町など、三重県志摩市、長崎県雲仙温泉、新潟県佐渡市他でロケが行われました。北海道ロケの合間、主演の岸恵子はあまりの寒さにショールを肩からぐるりと一周させ、耳や頭をくるんだことによるのだそうです。このスタイルが撮影中にも使われることになり「真知子巻き」が誕生したのです。
映画の中の真知子巻き
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既に見たとおり、この歌はラジオドラマ『君の名は』の主題歌として歌われました。歌ったのは高柳二葉でした。が、レコード販売に当たっては織井茂子が吹き込み、映画の主題歌にも織井の歌が使われました。以後歌謡曲『君の名は』は織井茂子の歌として知られることになったのです。
そしてこの歌は、ラジオドラマや映画を離れて歌自体としてひとり歩きすることになりました。
なお映画『君の名は』では、この主題歌の他に幾つもの挿入歌も歌われています。代表的なのが『黒百合の歌』(歌織井茂子)ですが、それ以外には『忘れ得ぬ人』(歌伊藤久男)『数奇屋橋エレジー』(歌伊藤久男)『君は遥かな』(歌佐田啓二、岸恵子)『綾の歌』(歌淡島千景)などがあります。
『君の名は』に属する歌の作詞・作曲は、すべて菊田一夫、古関裕而のコンビによるものです。
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フォレスタファンの皆様、長らくお待たせ致しました。ようやく『フォレスタの「君の名は」』を述べられる運びとなりました(笑)。
歌うは、小笠原優子さん、矢野聡子さん、白石佐和子さんの3女声です。
上のようなこの歌の背景を知って聴き直しますと、私自身思わずジ~ンとしてしまいます。またそうなるような、小笠原さん、矢野さん、白石さんの感情のこもった切々と歌い上げたコーラスだと思います。
3女声の歌を聴きながら、あらためてこの歌が名曲であることを再認識させられました。
のっけからの石川牧子アナの「忘却とは・・・」のナレーターも決まっていますし、数奇屋橋の街灯を模したものか、フォレスタステージには珍しく三基の本物らしい凝った街灯まで設置されています。
ステージ全体に夜霧が立ち込めている風でもあり、歌の雰囲気を高めるためによく練られた演出だと思います。
この歌は、ヒロインの氏家真知子が佐渡島に滞在した折りの心情を歌った内容だと思われます。1番と3番では佐渡の昼と夜の情景に仮託した真知子の心情が歌われ、2番は遠い(この時代は本当に遠かったはず)東京への想い、あの橋で別れた恋しい人への想いが歌われています。
1番から3番の冒頭独唱は小笠原優子さんです。この歌の小笠原さん、清純な美しさで、さながらヒロイン真知子そのもののようです。無理な注文を承知で、「どうせだったら小笠原さん、真知子巻きスタイルで歌っていただきたかったなぁ」・・・。
他に『港が見える丘』や『ゴンドラの唄』などもそうですが、叙情的な歌謡曲の名曲に小笠原さんの高く澄んだ歌声は欠かせないと思います。
その欠かせないはずの小笠原優子さんは今「子育て休養中」です。しかし当ブログで判断する限り、「小笠原人気」は絶大で他の全フォレスタメンバーを圧倒しています。
小笠原さん、矢野さんを欠きながら必死で頑張っておられる現女声メンバーにケチをつけるつもりは毛頭ありませんが、これはやはりファンの多くの「大切な人を欠いている」という思いの現われなのかもしれません。
ご自身のブログでも時折りアップしておられますが、花子ちゃんも元気ですくすくお育ちのようで何よりです。小笠原さんには、全国の多くのファンの声援を励みに、天が与えた「充電期間」を楽しんでお過ごしいただきたいと存じます。
矢野さん、白石さんのコーラスも見事です。お3人ともこの歌の心を十分汲んだ上での名コーラスです。
ピアノ演奏(南雲綾さん?)、石川アナのナレーター、ステージ演出など。多くの人の陰の力が結集して一つのコーラスが完成することを感じさせられます。
【注記】石山牧子アナ→石川牧子アナ の誤りでしたので訂正させていただきました。謹んでお詫び申し上げます。
【付録-さまざまな真知子巻き】
トップでアップしました「アメリカ映画でも真知子巻き」はすぐ画像が消えてしまいますので没としました。明らかに映画『君の名は』の巻き方を真似たものだと思われますが、いいシーンです。興味がおありの方は「真知子巻き」で「Google画像」検索してみてください。以下のように「面白い巻き」満載です。
可愛いギャルがキセル吹かして真知子巻きかよ~
あれれれっ、こんな人まで真知子巻き?(爆笑)
(大場光太郎・記)
参考・引用
『ウィキぺディア』-「君の名は」など
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