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フォレスタの「ともしび」

「フォレスタ ともしびHD」YouTube動画
(「ともしび」は2:00分から)

 

   

                             
  マッチ擦るつかの間海に霧深し身捨つるほどの祖国はありや
                            (寺山 修司)

  夜霧の彼方へ 別れを告げ

 夜霧は、紫陽花にそぼ降る梅雨、(当地では滅多に降らない)雪の夜道などとともに、普段見慣れた街並みを常ならぬ叙情的なよそおいに変えてしまう気象現象の一つです。
 俳句で「霧」は秋の季語ですが、地表面の温度と大気中の温度との差が微妙に釣り合わないと発生しないらしく、当地で今秋はあまり見られませんでした。ところが暦の上の立冬の今月7日、見事な夜霧となりました。

 ・・夜霧の彼方のビルの街では、幻想的でミステリアスなドラマが次々に生まれていそうな気配。四囲から霧が押し寄せるとある公園。ほの暗い街灯に浮かび上った広い園内を深い静寂(しじま)が領している。大きな木立は早や落葉を急ぎ、地面に紅や黄色の朽葉が散り敷いている。それを踏み鳴らして歩いていると、向こうから来た人とすれ違った。その人はその人なりの物語性を帯びて霧の中からふいに現われ、私が今しがた来た霧の中へと消えて行くのだ。

 夜霧は、我が国でも、ディック・ミネの『夜霧のブルース』、フランク永井の『夜霧の第二国道』、石原裕次郎の『夜霧よ今夜も有難う』など戦後歌謠曲の中で好んで歌われてきました。世界的な夜霧の名曲となると、『夜霧のしのび逢い』そしてこの『ともしび』となるのでしょう。

  雄々しきますらお いでてゆく

 「雄々しきますらお」が赴く戦いとは、第二次世界大戦です。同世界大戦をロシアでは「大祖国戦争」と呼んでいます。映画『レニングラード』で息づまる迫真の攻防戦が描かれていましたが、その名のとおりソビエト連邦(当時)にあっては、ナチスドイツの侵攻を阻止すべく祖国防衞のために全国から若い兵士が続々と戦線に馳り出されたのです。

  窓辺にまたたく ともしびに

 だから『ともしび』は、戦地に赴く若者とその恋人の離別、故鄕に残った少女と前線で戦っている若者との、遙か隔たっても変わらぬ愛の心をテーマとしています。
 ミハイル・イサコフスキーが同大戦の最中の1942年に詩を発表しました。発表と同時にロシアの大衆の心をとらえ、広く□ずさまれ、自然発生的にメロディがつけられるようになりました。

 上に見たように、この詩に描かれたような別れの場面は当時のロシアのどこでも見られたものであり、それゆえロシア民衆の共感を呼んだのです。

  尽きせぬ乙女の 愛の影

 こうしてイサコフスキーの詩にはいくつものメロディがつけられましたが、いつしか淘汰されてゆき唯一残ったのが、今日私たちが知っている『ともしび』なのです。この曲の作曲者は不明です。古いロシア民謡のメロディを借用したという説もありますが、詳細は分っていません。
 
 本項のまとめとして、『昭和30年代前半は「夜霧の時代」?』(2010年11月記事)におけるこの歌(1番)の感想を転載します。

 祖国のために前線に赴こうとする若き兵士。それをそっと夜の窓辺で見送る乙女。そこに置かれたともしび。この別れが二人にとって、今生の別れになるのかもしれない。か細くまたたくともしびは、そんな際どい二人の別れの象徴のようです。
 おそらく「愛」がこれほど高まるシチュエーションは他にないことでしょう。見送る乙女にとって、夜霧の彼方に遠ざかっていく恋人の後ろ姿は、逆に身の丈がどんどん大きくなって感じられたのではないでしょうか。

                        *
 日本では、昭和20年代後半から30年代前半にかけて、ロシア民謡を中心とした「うたごえ運動」がさかんで、中でも『ともしび』は広く歌われました。新宿ではズバリこのタイトルを冠した歌声喫茶「ともしび」(1955年開店)があり、うたごえ運動のシンボリックな存在として親しまれました。
 今では信じられないことながら、60年安保闘争(1960年)前後頃までは、国の将来を真剣に考える学生の多くがマルクス思想、共産主義思想を学んでいたのです。そのことが、当時ロシア民謡が広く歌われる上での土壌となったものと思われます。

 なお歌声喫茶は最盛期には全国に100店ほどありましたが、昭和40年代半ば以降の70年代全共闘闘争の挫折とともにブームは急速に蓑退、その後の10年ほどでほとんどの店が閉店していきました。
 そんな中新宿の「ともしび」はしぶとく生き残り、現在に至っています。また近年は、往時を懐しむオールドファンの要請に応えて、北は札幌市から南は沖縄県読谷村まで80店余の歌声喫茶が復活しています。

 全国に『ともしび』が広まるきっかけとなったのは、1958年(昭和33年)の第9回NHK紅白歌合戦でダークダックスがこの歌を歌ったことによってです。
 その伝播力がどれほどのものだったか、卑近な例で示しますとー。翌年間もない冬の頃、山形県内陸部の片田舎町の小学3年生だった私がこの歌を歌えるようになっていました。近所の中学生の人が私ら年少者に詞と曲を教えてくれたのです。この人はまた、『カチューシャ』(注 この歌もミハイル・イサコフスキーの作詞)も一緒に教えてくれました。

 『ともしび』の日本語訳詞は、楽団カチューシャによるものです。イサコフスキーの原詩にほぽ忠実でありながら、詩的香気の高い名訳詞だと思われます。

                      *
 この『ともしび』を、男声フォレスタが歌ってくれています。今井俊輔さん、大野隆さん、川村章仁さん(以上低音パート)、榛葉樹人さん、橫山慎吾さん、澤田薫さん(以上高音パート)の6人による男声フォレスタフルメンバーによるコーラスです。

 荘重、勇壮、悲調。非の打ちどころのない素晴しい『フォレスの「ともしび」』です。
 はっきり言ってダークダックスによる元祖『ともしび』を超えており、これ以上の『ともしび』など考えられません。ダークダックス、デュークエイセス、ボニージャックスなど先輩コーラスの方々も、自分たちの後を継いで余りある男声フォレスタの登場を誰よりも喜んでおられるのではないでしょうか。

 高音主メロディ、低音バックコーラス(後半入れ替わる)の1番、4番だけでも、十分聴くに値します。でも何といっても圧巻なのは、2番、3番の今井さんの独唱です。声量豊かで伸びのある『今井俊輔の「ともしび」』です。

 ところで今井さん、当ブログ「検索フレーズランキング」から推察するに、今年の男声フォレスタ人気ナンバーワンと言ってよさそそうです(昨年の1番人気はたしか榛葉樹人さん)。
 何と言っても今井さんの今年最大のトピックスは、二期会公演・ヴェルディ作品『マクベス』で主役のマクべス王を張り、大成功を収めたことでしょう。フォレスタの枠を超えて、「声楽家今井俊輔、さらなる高みへステージアップ!」、そんな感じですね。

 ここで切角ですから、(私もよく知らなかった)今井さんの華麗なブロフィールをご紹介します。(ここ重要ですよ。フォレスタ検定に出ますからね・笑)

今井 俊輔(いまい しゅんすけ) バリトン
東京芸大声楽科首席卒業。同大学院修了。第19回松田トシ賞、アカンサス賞、同声会賞を受賞。同声会新人演奏会、読売新人演奏会出演。また、卒業時の成績により皇居内の桃華楽堂にて御前演奏を行う。日伊声楽コンコルソ2位受賞、記念演奏会出演。近年の出演オペラ作品として『マクベス』タイトルロール、『カルメン』エスカミーリョ。他に『ジャンニ・スキッキ』タイトルロール、『イル・トロヴァトーレ』ルーナ伯爵、『道化師』トニオ、『ラ・ボエーム』マルチェッロなど。
二期会会員
  (東京二期会サイト『オペラを楽しむ』より)

 コーラス&今井さんソロにぴったり寄り添いながら、いささかの乱れも見せないピアノ演奏も見事です。男声メンバーの若かりし頃の収録のようですから、奏者は南雲彩さんでしょうか?特に2番、3番の今井さん独唱パートのトレモロ演奏はしびれます。

 今井さん独唱、他の男声コーラス、ピアノ演奏。どれを取っても、男声フォレスタの最高作品ではないか?私はそう思います。

 (大場光太郎・記)


関連動画
『フォレスタ 夜霧よ今夜も有難うHD』
http://www.youtube.com/watch?v=wWKYuicHD5c
関連サイト
『東京二期会-オペラを楽しむ』(今井俊輔さんのインタビューあり)
http://www.nikikai.net/enjoy/vol293_02.html
歌声喫茶「ともしび」のサイト
http://www.tomoshibi.co.jp/
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『フォレスタの「夜霧のブルース」』
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『昭和30年代前半は「夜霧の時代」?』
http://be-here-now.cocolog-nifty.com/blog/2010/11/post-cc59.html
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http://be-here-now.cocolog-nifty.com/blog/2009/11/post-5a80.html

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