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フォレスタの「湯島の白梅」

    (「フォレスタ 湯島の白梅HD」YouTube動画)
     http://www.youtube.com/watch?v=CWEMyVDY07Y


  白梅の残り香まとふ別れかな   (拙句)

 私にとって『湯島の白梅』は、『落葉しぐれ』(歌;三浦洸一)や『この世の花』(歌;島倉千代子)などとともに、物心ついた最初の頃にいつの間にか覚えた歌謡曲です。『落葉しぐれ』とともに亡母が歌っていました(『この世の花』は太郎村の親戚の家のラジオから聞こえていた)。

 時は昭和30年頃のこと。『湯島の白梅』は戦時中の昭和17年発表ですが、ちょうどその頃鶴田浩二、山本富士子主演の映画が公開されたように、(原作及び)この歌の時代を超えた根強い人気をうかがわせます。
 ただその後の世の様変りとともに、この歌のような恋の形は時代にマッチしなくなったのか、徐々に歌われなくなっていったように思います。 

 今回その『湯島の白梅』をフォレスタが久しぶりのリバイバルで歌ってくれました。hskjikさんが動画にアップしてくれているのを知り、思わず懐しくなり、すぐさま聴いてみました。珍しく中安千晶さん、横山慎吾さん、お二人によるデュエットです。『いいねぇ』とは思いながらも、他にも聴きたい新アップ曲もありその時はそれっきりになりました。

 多分「あること」がなければ、二度目はずっと先になっていたかもしれません。
 その後南雲彩さんのブログにお邪魔したことがありましたが、ある記事で興味深いことが紹介されていました。女声メンバーに対して『今年収録した中でお気に入りの曲は??』という質問コーナーを設け、各女声が2曲ずつ挙げているのです。他女声のは省略しますが(男声編は別記事)、中でも私が『おおっ!』と注目したのは中安千晶さんです。

千晶ちゃんは
→赤坂の夜は更けてと、湯島の白梅
     (中略)
湯島…、横山君とのデュエットが新鮮だったそうですよー。たしかに、言われてみると初ですものね、なるほどーφ(..)

このジャンル、わたくし正直言いまして、なかなか仲良くなれません。(『深谷トーク集』より)

とのことですが、南雲彩さんとは年代も感性もまるで違うわたくしめは、正直言いまして、「このジャンル、大の仲良し」です(*^_^*)

 それにしても貴方、嬉しいでは御座いませぬか(ト、俄かに『婦系図』の文体もどきとなり)、今をときめく森林合唱団(フォレスタコーラス)のお一人にして、甘洋菓子類(スイーツ)大好きと仰言る今様歌姫の、あんみつ姫ならぬチー姫こと中安千晶嬢が、かかる古典的歌謡曲がお好みとは。
 とは申せ、千晶嬢は、花も恥じらう真砂町の令嬢もかくやと見紛う、風にも堪えぬ柳腰の楚々たる風情。かように古風な處をお持ちとしても、驚くには当たらぬのかも知れませぬ。

 今年最初のフォレスタ記事だと言うのに、つい調子に乗りすぎて失礼致しました。

                     *
 そのような次第で、今度はじっくりと『フォレスタ 湯島の白梅』を聴き直しました。その結果、このデュエット曲は最近のフォレスタ曲の中でも出色の出来栄えなのではないか?と思いました。そして聴くほどに、「♪お蔦主税の心意気」、この歌全体に漲る悲恋調はどのような背景があって生れたのかを知りたいと思うようになりました。

 つまりは、この歌の原作とされる泉鏡花の『婦系図(おんなけいず)』を読んでみたのです。前篇、後篇に分かれ、新潮文庫版で400ページ以上となかなか読み応えのある力作です。明治41年元旦から某新聞に連戴されたのが初出です。そのため新聞読者を意識したか、全体として当時の大衆小説ではないだろうか?との印象を持ちました。

 しかしそこは「近代文学の言霊(ことだま)使い」と評される泉鏡花のこと、単なる通俗小説に堕していません。時に雅文調、時に講談調、ベランメー口調を自在に駆使し、人物描写、心理描写は適確、江戸の名残りを色濃くとどめる明治末期の東京下町情緒を活写している技量の冴えには唸らされます。

 私が中学生以来心にかけていた『婦系図』を図らずも今回読むことになったのは、「湯島の白梅」の場面を読みたいがためなのでした。しかし前篇、後篇通して無い、その場面がどこにも。ただ芸者上りのお蔦と密かに所帯を持っていた文学士の早瀬主税が、お蔦と別れなければならなくなった直接の事情は分かりました。二人の仲を生木を裂くように引き裂いた「別れさせ屋」は、何と早瀬の恩師の大学教授酒井俊蔵だったのです。

 お蔦との関係を知った酒井俊蔵は早瀬に厳しく詰問します。そして言うのです。
「俺を棄てるか、婦(おんな)を棄てるか。」
 分ってるな、二つに一つだ、さあさあさあさあ、とばかりに殺生な選択を迫ります。
  「♪義理と人情を 秤にかけりゃ 義理が重たい 男の世界」(『唐獅子牡丹』より)
「婦を棄てます。先生。」
 早瀬主税は判然(はっきり)云ったのでした。

 これは前篇後半のシーンですが、対して「棄てられた」お蔦を慮(おもんばか)る描写のないまま後篇に突入し、不治の病を得たお蔦は死んでしまいます。アッと驚く大結末を読み終え、引き続き解説を読んで謎が氷解しました。
 『婦系図』にあって、主税とお蔦の悲恋物語は全体の導入部であり、そもそもの原因となった静岡の名家河野家への大復讐に至る、プロットに過ぎなかったのです。

 『婦系図』は、やがて単なる明治文学の枠を超えて、演劇、映画などで大衆的な人気を博していくことになります。そしてその核となったのが「お蔦主税の悲恋物語」だったのです。明治41年の最初の舞台化の時既に、「湯島の別れの場面」の原型が存在したと言われています。この場面があまりにも有名になったので、泉鏡花自身が大正3年の明治座公演に際して、本来のストーリーにない『湯島の境内』という題名の戯曲として書き直したのです。

 「月は晴れても心は暗闇(やみ)だ」
 「お蔦、俺と別れてくれ」
 「切れるの別れるのッて、そんな事は、芸者の時に云うものよ。……私にゃ死ねと云って下さい。」
 舞台で満場の紅涙を絞り、平成今日の私たちでも知っている有名なセリフです。なお言わずもがなですが、「湯島の境内」とは、湯島天神(天満宮)の境内のことです。


 
 昭和に入ってから、以下のとおり何度も映画化されました(『ウィキペディア』より)。なお上のポスターは、『婦系図(1962年公開、大映製作)』(主演:市川雷蔵、万里昌代)のものです。

婦系図(1934年公開、松竹製作)
監督:野村芳亭、脚色:陶山密、主演:田中絹代、岡譲二
婦系図(1942年公開、東宝製作)
監督:マキノ正博、脚色:小国英雄、主演:長谷川一夫、山田五十鈴
続婦系図(1942年公開、東宝製作)
監督:マキノ正博、脚色:小国英雄、主演:長谷川一夫、山田五十鈴
婦系図 湯島の白梅(1955年公開、大映製作)
監督:衣笠貞之助、脚本:相良準、主演:鶴田浩二、山本富士子
婦系図 湯島に散る花(1959年公開、新東宝製作)
監督:土居通芳、脚本:金田光夫、主演:高倉みゆき、天知茂
婦系図(1962年公開、大映製作)
監督:三隅研次、脚本:依田義賢、主演:市川雷蔵、万里昌代

 このうちの『続婦系図(1942年公開、東宝製作)』の主題歌として作られたのが、『婦系図の歌』(別名『湯島の白梅』)です。作詞:佐伯孝夫、作曲:清水保雄、歌:小畑実、藤原亮子で大流行しました。 

                      *
 中安千晶さん、横山慎吾さんによる『フォレスタ 湯島の白梅』につきましては、上にも述べてきましたが、最後にまとめとしたいと思います。

 「横山君とのデュエットが新鮮だったそうですよー」という南雲彩さん評のとおり、お二人の呼吸(いき)がピッタリ合った見事なデュエット曲です。(なお余談ながら、「横山君」というあたりに、南雲彩さんと横山慎吾さんとの年齢的序列がうかがえて面白いと思います。)横山さん専売特許の「ジェントリー・テノール(やさしいテノール)」による2番独唱ももちろん素晴らしく、聴きごたえ十分です。

 しかしこのデュエット曲の主役はやはり中安千晶さんかな、と思います。さすがは思い入れの深い歌とあって感情移入十分、情感の襞(ひだ)細やかに、切々と歌い上げています。ほぼ元歌に忠実な歌い方で、最近の『フォレスタ歌謡曲における「こぶし」是非論』で取り上げたこぶしもたっぷり効かせているように見受けられ、その面でも嬉しい限りです。

 フォレスタ動画史上空前の大ヒットとなっている『七里ヶ浜の哀歌(旧バージョン)』もそうでしたが、哀切な調べの歌に中安さんの声質が合っているのでしょうか?この歌は言わば『中安千晶の湯島の白梅』、中安さんの代表曲の一つになりそうです。

 何かの歌(以前の『蛙の笛』動画です)のどなたかのコメントをここでも繰り返します。 「中安さん、この歌あなたにピッタリ!」

 ピアノも歯切れよく心地良い演奏です。「誰れなのかな?」と思ったら、パッと吉野翠さんがピアノに向っている姿が浮んだのですが、さてどなたなのでしょう。

 とにかく繰り返し聴いても飽きがこないんですよね(クセになります)。『フォレスタ 湯島の白梅』も大ヒットになりそうな予感がします。

 (大場光太郎・記)

引用
南雲彩ブログ『今日のつぶやき』-「深谷トーク集」
http://aya-nagumo-piano.blog.so-net.ne.jp/2013-11-21
青空文庫『湯島の境内』
http://www.aozora.gr.jp/cards/000050/files/3578_19568.html
関連動画
『フォレスタ この世の花』
http://www.youtube.com/watch?v=7eNXBmLh2Qk
『フォレスタ 七里ヶ浜の哀歌(旧バージョン)』)
http://www.youtube.com/watch?v=tO76LnwCBDg
関連記事
『フォレスタ歌謡曲における「こぶし」是非論』
http://be-here-now.cocolog-nifty.com/blog/2013/12/111111.html

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