折り折りの短歌(6)
(薔薇4首)
薔薇などはどこかつれない花なるに心惹かれて凝(じ)っと見ている (※1)
茫々の草の川辺にただ一つ真っ赤なバラが立ちて咲きをり
垣根よりふいに顔出す紅きバラ我に何かを告げしごとくに
ギリシアの野に咲くバラと戯(たわむ)れるニンフの姿幻視してみる (※2)
晩春か初夏かと惑うきょうの日の街にさやかな風と緑と
生温(なまぬく)き夜の車道の下潜(くぐ)る下水の管の涼し水音
街中(まちなか)の水路につがいの鴨がいて離れつ寄りつ遊びてをりぬ
用水の両に草々連なりて街ささやかなビオトープなり (※4)
嵐来る予兆の風に吹かれつつ震える木々にじっと目を遣(や)る
鳥が啼き風吹きつのる午後でした青葉の中の病葉(わくらば)落ちしは
「5・11」知ったこっちゃない子供らは元気な声で遊び回れり
民草と青人草と古語にあり名もなき草にも心はあるか
遊歩道の野良愛猫(のらあいびょう)と遊びつつ西の彼方の美し夕焼け
街中のわずか残りし早苗田のここだにしげき夜の蛙音(かわずね)
仄暗き駅構内で外見れば街に溢るる初夏の光よ
昼顔が所在なさげに咲いている午後二時過ぎのとある片町
青葉せし木の下闇(このしたやみ)がかもし出す小幽玄にしばし憩える
(大場光太郎)
【注】
※1 この短歌は『ギリシャ神話の中の薔薇(1)』冒頭に掲げたものですが、今回こちらに借用しました。
※2 「ニンフ」とはギリシャ神話中の妖精的存在(複数)。女性として現われる。
※3 「ビオトープ」とは、生物の住息環境を意味する生物学の用語でドイツで生まれた概念。私自身は水辺の環境と捉えています。
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